あの日保険屋が言った、「癌治療に必要な物は、お金、時間、知識です。」
僕はこの言葉を聞いた時、なるほどと思った。
言うまでもなく支えてくれる家族友人や、やるぞと言った自分の気持ちも大切ではあるのだが、尊敬する父も長年連れ添った親友も癌を切れないし、私の情熱でも癌は燃えない。
現実主義の私の見方では、そう言った要素は治療の完遂に間接的に必要な要素であって、直接的に関与しない。
この国では身寄りのない人は癌治療を受けられないだろうか。否、治療を受ける事ができる。どんな人でも治療を受ける権利があるし、体の問題がなければ全国どこでも標準治療を受けられるはずだ。
誤解しないでいただきたいが、私はひとりでも治療は出来ると言いたいのではない。先ほど挙げた間接的な条件は直接的な治療との相乗効果をもたらす。
一人で塞ぎ込んで行う治療と、家族友人に支えられ気合十分に挑む治療では、同じ治療でも結果は変わるのは当然だ。
そしてそのベースである〝同じ治療〟を最高の質に高めるのに必要なのが「お金、時間、知識」なのだ。
今回はその中でも「知識」の得方について記したいと思う。
私は医療従事者として白衣を着て働いているので、癌が消えるキノコや奇跡を起こす呪いの類は今回紹介しない。
代わりに診療ガイドラインなどで推奨された科学的根拠に基づく、医学的なコンセンサスが得られた情報の得方を紹介する。
予備知識があると、医師や医療従事者の説明もわかりやすいと思う。
担当医の難しい言葉を話された圧倒された時には、「そうですか」と帰った後に調べて次回聞くのもいいだろう。
学ぼうとする姿勢は戦おうとする姿勢だ。
人に投げ出した時点で勝負は決まってしまう。
そもそも医療系だとか理系の研究者だとかそう言った人には、今回の記事は釈迦に説法なので、スルーしてもらって良い。
◯
まずはこのブログでも許可転載する事の多い、
国立がん研究センター情報センターの紹介から。
↓クリックで転送する。
癌に関して知りたい事があれば、
まずこのサイトを確認してもらいたい。
検索エンジンからの検索は、ヒットする情報が必ずしも信じて良いデータか判断するのが難しいからだ。特に、癌になった本人は精神的不安から判断力も通常より鈍る恐れがある。
この私もまだ治療が始まっていない時、「癌を消してくれるおまじない」を勧められた時は一瞬おっと思ったものだ。私も日本人としての信仰はあるので神社や寺を参るが、何十万も出して謎のおまじないをしたり健康食品を売ったりする人を信じてはいけない事はわかる。
話が多少逸れたが、上記のサイトは情報量が圧倒的で画像も多く説明がわかりやすい。
最寄りのがん拠点病院、自分の病気の事や出来る治療などについて知れる。
治療が始まってからも抗癌剤や放射線治療に関しての疑問をここで解決出来ると思う。
特に読んでもらいたい記事は
もしも、がんと言われたら←これは是非とも一読していただきたい
国立がん研究センターは本も発売している。
癌に罹患した場合、自分のものだけは目を通しておくことをお勧めする。
画像も豊富で一般人にもわかりやすく書かれている。
国立がん研究センターの肝・胆・膵がんの本 (国立がん研究センターのがんの本)
- 作者:島田 和明,奥坂 拓志
- 出版社/メーカー: 小学館クリエイティブ
- 発売日: 2018/06/22
- メディア: 単行本
◯
次は「診療ガイドライン」を得る方法。
検査や治療と言った行為は全て、各専門学会の作成するこのガイドラインに沿って行われるべきで(沿わない先生は良いか悪いかはわからないが、普通(基準)ではない。)あの先生はこう、この先生はこう、と言ったばらつきを無くし、全国どこの病院でも同じ病気に関しては同じ検査、治療を受ける事ができる様にする為の物である。
いわば現場に出てからの医師や医療従事者の教科書の様な物である。
↓診療ガイドライン入手先
今回は例として「上咽頭癌の標準的な治療について」をガイドラインから読み取ると言う作業をしてみる。
まずは上記のサイトにアクセス、画像の通り進めて欲しい。
疾患名で検索する。もちろん癌以外もOK。
今回は最新版がアクセスできなかった為、2013年の物を閲覧した。
最新版の入手の方法は後に示す。
必要な情報にアクセスできた。
私の場合、ステージ4aで導入化学療法+化学放射線治療を行っている。
放射線治療の線量、期間も合致(担当技師から合計線量と日あたりの線量は教えてもらえると思う)。薬物も白金のシスプラチンがメインなので合致していて全てガイドライン通りだ。
この様に自分の行っていく治療がガイドラインに沿ったものであると知ることができる。
ちなみに最新版のガイドラインは
本で購入するか、検索エンジンからアクセスの二通りがある。
ただ、担当学会によっては一般人向けにネットでは公開していない場合があるので注意されたい。その場合はがん拠点病院で相談すれば資料を用意してくれると思う。
上咽頭癌について記されている、頭頸部癌の場合はpdfで公開されていた。
本の場合もAmazonで購入できる。
儲ける為の本ではないので専門書の類にしては安価である。
◯
次に紹介するのは論文検索できるページの紹介。
ここで予め言っておきたいのは、
論文が出されたからと言って根拠があると言う訳ではないと言う事だ。
そもそも論文はかもしれませんと言った事を発表していい場だし、論文なんて物は誰でも発表できるからだ。先に挙げたがん情報センターなどを利用して予備知識を深め、きちんと見極める能力がついてから利用していただきたい。
論文検索をすると国内外の様々な新しい治療についても知る事ができると思うが、医療従事者の私が保険適応の〝標準治療〟を行っている事が一つの答えだ。
10年後にはポピュラーになっていく様な治療を知ったとしても、その治療は今の所はエビデンスがない(先進医療は別だが)。そう言った治療を知ったとしても標準治療を時代後れなやり方だなどと勘違いしないではいただきたい。
↓クリックで転送する
検索するとこの様にヒットし、様々な論文を読む事ができる。
左側にある指定期間の指定は行った方がいい。
基礎的な学習ができる論文ならともかく、大多数の方は新しい知識を得たいと論文検索をしているはず。特に医療の世界は日進月歩だ。
それに20年前の5年生存率を見て絶望する必要もない。
◯
次に紹介するのは医薬品の添付文書(薬の取説)を確認出来るサイト。
↓クリックで転送する
「あれ、あの抗癌剤の副作用なんだっけ?」と言う時に使える。
もちろん手持ちの風邪薬の添付文書も確認できるので覚えておいて損はない。
①トップページが表示され一番上の方にある「医療用医薬品」をクリック。
②薬品名を入力、検索。
③画像の順序の通りに進める。
添付文書は使用者向けなので市販の薬の物は我々も目にするが、病院で処方される薬の物は普通目にする機会がない。かと言って都合の悪い情報を隠している訳でもなく、抗がん剤レベルになると病院から渡される説明文書にも「もしかしたら死ぬかも」と書いてあるので、もう少し詳細に使用者向けに書いてあるだけである。
④添付文書が表示された。
添付文書の入手方法を記したが、病院や薬局には薬剤師がいるのでよくわからない時は頼った方がいい。難しい文章を読むよりわかりやすく説明してくれるはずだ。
◯
以上、癌治療において「知識」を得る方法について記した。
膵がんで亡くなったステーブジョブズは、膵がんの中でもオペで治るものだったと言われている。
ではなぜ亡くなったのか、体にメスを入れるのが嫌でオペを拒み、食餌療法で治そうとしたり、呪い師に会いに行ったりマクロバイオティックを行ったりしていたと言われている。
そして最後は、オペを受けなかった事を後悔したと言われている。
あれほど賢い人が、なぜ判断を誤ったのか。
それは溢れかえる情報に惑わされた様に思う。
「体にメスを入れずにがんが消える」と言われれば、
あの様な偉大な人間でさえ判断を謝るのだ。それほどがんになるという事が精神的に厳しい事だったと言うのが伺える。
結果論で申し訳ないが、彼の場合はガイドラインをみて医者の言う事を聞いていればベストだったのだ。
我々が癌がだとわかった時、家族や友人の中にはその治療方法では民間療法などを勧めてくる〝優しい人〟が一定数存在する。
それらのやり方が必ずしも間違えているとは言わないが、エビデンス、つまりは根拠がない。ある人にはドンピシャだったかもしれないが、あなたには合わないかもしれない。
ガイドラインに載っていないやり方で何か治療を勧められた場合は注意深くなる必要があると思う。
治療の選択に関しては誰も責任を負ってくれない。
だから病院でも嫌というほど同意書を書くのだ。
おまじないする人は、悪いところを隠すだろうから「死ぬかも」なんて同意を書かせはしないだろうがね。
私は標準治療を自分の選んだ最高の病院で受ける今、もしもがあっても後悔はない。
皆さんにも後悔がない様に、情報をうまく取り扱ってもらいたいと思う。
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