癌宣告の翌日は土曜日だった。
意外にも私はぐっすりと寝れた。
母は目の下に大きなクマを作って全く眠れなかったと言って笑っていた。
今日はパートを休もうかと聞いてきたが、出来るだけいつも通り生活してくださいと言っておいた。
母を見送った後、妹と2人で近所のカフェに行った。
妹とは結構仲がいいが2人で出かけるのなんて数年ぶりだった。
このアプリが面白んだとか、彼氏がどうなんだとかそんなしょうもない話をした。
神様に「もうすぐ死ぬかも」と言われても、時は変わらず過ぎっていった。
◯
その日の晩、自分の患った上咽頭癌について調べた。
正直に言うと怖気付いた。
ステージ3以上の場合、5年生存率は50%を切る。
直感的に自分は死んでしまうのだと思った。
人間はいつか死ぬ。
そんな事は解っていたはずだったが、全く解っていなかったんだ。
昔、自衛隊でバイトをしていた事がある。
「ベッドには戻って来れんかも知れんのや。」
と、ベッドを出たら必ず綺麗に整えるように教えられた。
それからというもの、遊びに行く時は部屋を小綺麗にして出るようになった。
バイクに乗って、山を登って。
「今のは危なかった。一歩間違えれば死んでいたかも。」
そんなシーンが何度かあった。
白衣を着る仕事の中で
「この人今日死ぬなんて思わなかったろうな」
なんて、ひとりでしゅんとしてみたり。
でも結局私は〝死〟と言う物を全く理解していなかった。
人はいつ死ぬかわからないと解っていたのに、
何となく〝自分だけは〟五体満足で80歳位まで生きるような気がしていた。
そんな思い込みは間違えていた。
俺は近いうちに死ぬかも知れない、好きな事も出来なくなるかも知れない。考えても仕方ない事なのにそんな事ばかりが頭に浮かんだ。
その日の晩は殆ど眠れなかった。
まだ日が明るくなる前、新聞屋のカブの音がどこか懐かしかった。
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