24歳でがんになった。~Return Match~

24歳にして突然の上咽頭癌ステージ4の宣告。その時私は〝がん患者〟になった。

会いたい人

PET検査の翌日、2019年10/29。

 

小っ恥ずかしいがこれは書き留めとかねばならないだろう。

 

その日、3年ぶりに元カノと会った。

大学時代毎日のように一緒にいたが、就職の際遠距離になったことがきっかけで別れてしまった。結局私が転職した事もあって近くに住んでいるのは知っていて、何度か連絡しようかと思ってはやめた。

「会いたい」の正体が自分でもわからなかったが、過去は忘れるべきで連絡をしてはいけない事は解っていた。

 

未練とかそういうものじゃないと思うけど、数年一緒にいたもんだからたまに夢に出てきては笑いかけてきた。

あちらから振っておいて私の夢に勝手に出てくるとはムカつく野郎だ。

アポはどうしたのか。こうなると彼女が社会人として上手くやっていけているのかいささか疑問であった。

 

数年ぶりに彼女に連絡をした。

シンプルに「急だけど今週中に会いたい」とメッセージを送った。

暫くして訳も聞かずに「いいよ」と一言返事が来た。

 

なんとも簡単に予定は決まった。

私はこの一言を言い出すのに三年もかかったのかと笑えてきた。

やっとこれを言えたのも癌のおかげだろう。

 

当日、待ち合わせのバルに彼女はいた。

「急に呼び出してごめん。」と私はまず謝った。

「ほんと急でびっくりした。何かあったんでしょ」と少し笑いながら彼女。

「犯罪でもやって高飛びすると思われても嫌だしね、実は治療で暫くは関西離れる事になって。それで会って起きたいなと思って。」笑いながら話した後、少し俯く私。

「上咽頭癌なんだよね、リンパ節転移があってステージ3以上だと思う。」

彼女も同じ医療従事者で知識はある、その一言で察してくれたようだった。

 

それから何を話すのかと思っていたが、私達は終始笑顔で話していた。

数年離れていたのに不思議なもんだ。

酒も少し入った頃、彼女が言った。

「あんまり心配してないよ、昔から波瀾万丈だったし、やり遂げてきたから。」

 

〝波瀾万丈〟その一言はとても懐かしかった。

大学生の頃、遊び回って留年の危機に直面した私。

いよいよダメかと思われた時に、救いの手を差し伸べてくれた一人の教授がいた。

金髪の私が教授の部屋の戸を叩く。「先生、この成績は間違っています。私に単位が出るはずがありません。」すると教授は「どんな世の中にもこうやって手を差し伸べてやる人間が必要なんです。」と笑った。

Mr.伴、あなたが神か。その時、期待に答えねばと思った。

 

残りの2年、私は一日の殆どを勉強に費やし首席で卒業した。

卒業式の日、教授は「やっぱり君の人生は波瀾万丈です。」と笑っていた。

 

そんな学生生活を隣で見てきてくれたのが元カノだった。

よく支えてくれたいい人だった。

 

その日、どうしても伝えておきたい事があった。

簡単に言うと感謝の気持ちだった。

全部話した後、彼女は泣いていた。

 

三年間〝会いたい〟の姿がわからなかった。

過ぎてみれば自分は彼女の顔を見て「ありがとう」の一言が言いたいだけだったように思う。

 

あぁしたいこうしたいは実行しなければいけないなと思った。

行動する事でしか解決しない事がある。

 

3時間ほど話した後、話し足りないねなんて話しながら改札まで彼女を見送った。

改札を過ぎてから彼女は一度振り返り小さく手を降った。

 

自分も帰路につくために別の改札を通りホームへ入った。

元カノとの再開という一仕事を終えた中、ほろ酔いの中でホームで不意にこれから難しいだろうな、死んじゃうのかなと先の事を考えてしまった。

 

その時不意に、不意にこう思った。

「それなら今死んでも同じではないか。苦しみながら死ぬよりはこのまま幸せの中で死ぬ方が幸せではないか。」

一瞬の事だった。自分でもゾッとした。私はホームで何を考えたのか。

 

恐怖から逃れようとして自ら死を選ぶ。

これは人間として本能の中にあるものだと思う。

にこやかに人前で笑っていても、その時はそれほどに死の恐怖が心の中にあったんだろう。

 

「神様、〝普通〟の人間ならこの恐怖に耐えられない。この若さで癌になったのが俺でよかったよ。」そんな事を考えながら私はうつらうつらと電車に揺られて帰った。

 

 

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