「びっくりすると思いますが、癌です。」
医師の一言目はそれだった。
忘れもしない2019年10月25日、私はいつものように職場で仕事をしていた。
午後3時頃、携帯に一本の電話が入った。
一週間前に生検を行った大病院からで、結果が出たからすぐに来てくださいという。
元々の診察の予定は2週間後だったはずだ。
その口調から生検を行う時に言われた「もしかしたら」が現実になったのだと察した。
反面、信じたくはないという気持ちもまだあった。
職場を早退しすぐに病院へ向かう。
先生が来るまでの間、看護師さんが対応してくださった。
「PETの予約を取りますので…」通常PET検査は遠隔転移の有無の為に行われる。
自分が癌である事を覚悟した。
その後、医師に呼ばれ診察室へ入る。
席に着くように促され、先生が私の目を見て優しく言った。
「びっくりすると思いますが、癌です。」
覚悟はしていたがやはりショックだった。
よく頭が真っ白になると言うが、私の場合は出来るだけ冷静を装おうと、理性を保とうと拳を強く握り締め、先生の話を聞くのに必死であった。
その日そのまま造影CTを撮影、頸部リンパ節への転移もある事がわかった。
「治療は地元でしたいのですが」と伝えると、快く承諾していただけた。
「一週間後の診察で紹介状を書きます。」と医師。
その日はとりあえず〝経過報告書 上咽頭癌〟と記された書類を手に病院を離れた。
一人暮らしをしている小さな和室に帰った私。
ここはいつもと変わらないボロさと冷たさで俺を迎えてくれた。
天井からぶら下がった裸電球に結び付けられたキーホルダーが揺れるのを眺めながら考える。これから…今からどうすれば…
とりあえず実家に帰って癌になった事を伝えなければならないと思った。
黙って治せるものでは無い。
田舎の母親に電話をする。
「母さん、ちょっと時間が出来たから今から帰るよ。」
私の住む所と実家は100㎞少し離れている。いつもは2ヶ月に1度しか帰らない私が、一週間前にも帰っていたので少し驚いていたような感じだった。
理由も聞かず「待ってるね」といつものように答えてくれる母の優しさが、その時は痛かった。
私はリュックに荷物を纏め、駅へ向かい歩き始めた。
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