駅へ向かって歩く。あたりはすっかり暗くなっていた。
ただ無心で歩を進めていると、見慣れた背中が街灯に照らされた。
同期の羽貫さんだ。
彼女とは定期的にベロベロに飲んだくれて、翌日は後悔する仲だ。
「よう。帰りか?」声をかける。
「あら、歩きなんて珍しい。飲みにでもいくの?」
「いや…ちょっとね」
件に関してまだ誰にも話していない。話すか一瞬迷ったが兄弟のような奴だ、黙っておくわけにはいかない。
「俺、癌が見つかって。」僕は笑いながら言う。
「えぇ⁈」
「言おうか迷ったが、誰かに話したかった…すまん…」
俺はひとりで抱えきれぬ痛みを他人に投げた。
沈黙。二人の足音だけが聞こえる。
「何と言ったらいいかわからないけど……飯食った?」
「え?いや、まだだけど…」
「奢るよ、今日は。」
私達は知らぬ間に駅前の定食屋の前まで来ていた。
羽貫さんと面を合わせて飯を食った。
食欲は無かったが、出来るだけ笑って飯を食った。
正直何を話したがあまり覚えていないが、やはりいい奴だなと思ったのだけ覚えている。
「見送るよ」と彼女が言った。
変わった事をされると気味が悪いよとそれを断った。
見送られたくない。
「気をつけてね。」先に彼女を見送る。
ひとりになると落ち着かない。
まともな人間が正気を保てるのか疑問だ。
私は赤玉パンチの缶を片手に2時間半の旅路へとついた。
酔いが廻る。音楽も聞かずに窓を眺めて、母は泣くか仕事はどうなるかなんて、くだらない事を考えていた…
⭐︎⭐︎ブログランキング参加しております。⭐︎⭐︎
執筆の励みになりますのでよろしければワンクリックお願いします。
⭐︎⭐︎amazon欲しいものリスト公開しております。⭐︎⭐︎
大変厚かましい事は承知ですが、闘病、執筆の励みになりますのでよろしければご支援お願いします。