2020年9月19日の晩、久しぶりに酒を飲んだ。
今回のブログはその一杯に至るまでの回想録である。
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病気をする前の私といえば、仕事がある日でもよく外に飲みに行ったし、週末は夜中まで飲み歩いているような人間だった。
癌がわかった日も、その不安を酒でごまかしながら帰った。
自分はひとりでベロベロになるほど飲むことはなかったが、今思えば酒というものに依存する所はあったかもしれない。
治療が始まってすぐ、導入化学療法(抗がん剤のみの治療)の期間については、飲酒については多少は可との事で、週一回位の頻度で友達と電話しながら缶チューハイを一本飲んでいた。
化学放射線治療が始まる直前、その治療期間中は飲酒は禁止するように言われた。
その治療自体は1月の初めからだったが、2019年12月30日に同僚たちとオンライン飲みで飲んだ一杯の缶チューハイを最後とした。
楽しいオンライン飲み会の様子を皆にも共有したいが、すっぴん美女たちの写真を公開すると女性社会でどうなるかわからないので、氷結を自慢されているシーンだけ載せておく。
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化学放射線を行っていた1月から3月半までの間、そもそも味もわからず飯を食うのもやっとの状態だったので、流石に辛くても酒を飲みたいとは思わなかった。
治療が終了し味覚が少しずつ戻ってきて、ご飯を作ったり人と食事に出かけられるようになると、酒を飲みたいと思う機会が増えてきた。
医師からは治療中はやめてくださいと言われていたのみで、治療終了以後はどうすべきか伝えられてはいなかったが、一応自粛を後続していた。
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経過観察の1回目、5月の検診の時に酒を飲んでいいか医師に聞いた時は
「付き合いもあると思いますが…」とにこりと笑い、お茶を濁された。
私としては、それはやめて置いた方が良いという事だと解釈した。
今まではいつかはまた酒が飲めると思ったから我慢してきたのに、
それがこれから一生酒が飲めないとなるととても辛かった。
別に昔のように浴びるほど酒を飲みたいわけじゃない、
飲み会の席で、気になるあの子とのデート、友達の結婚式、親父と久しぶりに会った時…そういう特別なシーンで一杯でいいから酒が飲みたかった。
しかし、飲むなと言われると私は飲めない。
そんなもの自分で判断すれば良いのだろうが、ここまで連れてきてくれた先生を信頼していたから、その先生のいうこと聞かないということは私には出来なかった。
飲めないと言われれば、酒というものを忘れるしかない。
タバコがやめれたのだから、酒をやめれないというわけはないはずだ。
しかし、一生というのは…‼︎
酒が飲みたいというモヤモヤとした気持ちを抱えたまま、療養の日々を過ごしていた時、SNSをみていると同じ上咽頭癌のサバイバーの人たちもちらほら酒を飲んでいるのが目に入った。
気になって話を聞いてみると、特に止められていなかったり、量や頻度など自己判断だったり様々だった。(アドバイス下さった皆様ありがとうございました。)
「本当に飲んではいけないのか?」と思った私は、
2回目の経過観察である8月の診察時に医師に改めてその質問をする事にした。
その時の事に関しては過去記事にも記してある。
医師いわく、やはり医学的には頭頸部の癌を経験した患者にとって、酒は勧められたものではないという話だった。
しかし、その言葉の後に先生は医者としてではなく一個人としてアドバイスをくれた。
それは個人としてのアドバイスであるので、ここに記す事は差し控える。
結果としては、私はルールを決めてごく稀に酒を飲む事を自分に許可する事にした。
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さて、酒を飲めるようになった私であるが、今の自分にとってそれはリスクファクターとなり得ることはわかっているので、いつどのような状況であれば自分から自分に対して飲酒を許可されるのかルールを決める必要があると思った。
許可というのは、原則は禁止されるものであって、普段は禁止の状態を後続するという事を意味する。
今までは酒を飲みたいシーンというのがたくさんあった。
人と飲みに行った時、金曜日の晩、イライラした時、疲れた日など…
そんな中でもどうしても飲みたいと思ったシーンを絞り込んでいくと、誰かが酒を飲むシーンだと気づいた。
人と付き合う中で、同じ行動や同じ趣味嗜好に対する仲間意識は大きい。
飲み会の場でも同じく、シラフの人と飲酒してる人の間には大きな壁があるように思う。
1杯か10杯かというのは些細な事でしかないが、0か1かの差は大きい。
だから私は、誰かと酒を飲むようなシチュエーションでのみ、自分も酒を飲んで良い事にした。
量については、1杯、2杯という決め方は曖昧だ、
言わずもなが同じ量でもアルコール度数が異なれば当然摂取するアルコール量が異なる。重要なのは量ではなく、出来るだけ摂取するアルコール量を減らす事だ。
厚生省の定めるところによれば、通常のアルコール代謝能を有する日本人においては「節度ある適度な飲酒」として1日平均純アルコールで約20g程度が適性とされている。
健康な日本人がこの量なのだから、私は仮にボーダーラインを純アルコール量でおおよそ20g以下にする事とした。
誰かと過ごす酒というものは、時間をかけて飲むほうが雰囲気を長い間楽しめるだろう。
例えば日本酒半合(アルコール量25g)をクッと飲んでしまうより、ほろよいに代表されるような一般的に「弱いお酒」と呼ばれる物を3缶(アルコール量24g)飲むの方が自分としては楽しい時間を過ごせるのではと思い、飲む時は弱めのお酒を飲む事にした。
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酒を飲めるようになった自分ではあるが、
久々の酒をいつ解禁するのかは自分の中では決めていた。
それは「水曜の定例会」のメンバーと集まった時しかないと。
(水曜の定例会については過去記事参照)
我々は生まれ育ちも職種も違ったが、一緒に酒を飲めることがきっかけで、結ばれた仲間だったのは間違いない。
だから、記念すべき一杯を共に迎えるのはこいつ達しかいないと思っていた。
「酒が飲みたい‼︎」
私のLINEに、メンバー達は立ち上がった。
あるものはオンラインデートをすっぽかし、
また、あるものは夜勤明けで来てくれた。
そうして2020/09/19、
ほぼ一年ぶりに6号棟に我々「水曜の定例会」のメンバーは集った。
豪華なメンツに、豪華な食事。
私はまず一本目はオールフリーで。
楽しい酒の場の雰囲気に体を慣らしていき、しっかりと自分を暖機してやる…
ほぼ一年ぶりにあうメンツとは、アルコールなしにも会話が弾んだ。
1時間ほどたった頃、オールフリーの缶が空になった。
「さてと…」と私がいうと、友人が行きますか、とそれを取り出してきた。
私にとって特別な酒と言えばやはりこれ、赤玉スイートワインしかないだろう。
特別、美味いわけでもないが、なぜかこれに惹かれてしまう。
そう言えば、癌がわかったあの日ひとりで飲んだ酒もこれだった。
私はこの酒はロックではなく、ソーダ割で飲むのが好きだ。
(特に、この酒でソーダ割りする事を赤玉パンチと呼ぶ)
普通、1:1で割るのがメジャーだが、体の事を気遣って1:5くらいで割った。
透明のグラスに、赤いワインとソーダが混じり合い、シュワシュワと弾けていた。
久々の酒を目の前にして、私は思わずにやけてしまう。
気持ちは昂り、試合前のような気持ちの良い高揚感と緊張が入り混じる。
さぁ飲むぞと宣言し、私はそれをゴクリと飲んだ。
私は目を閉じたままその味を噛み締める、
暗闇の中で友人達がどうだどうだと問いかけてくる。
時間にして5秒程だったろうか、
短い時間であったと思うが、一瞬のうちに私は深い海の中に潜ったような感覚になった。そして治療中の苦労や、禁酒期間の辛さのようなものが頭の中を過ぎ去った。
その深い海から水面へと飛び出した私は、美味いと一言大声で言って、思わず泣き出しそうになってしまった、
それは特別な酒だった。
その日は結局、もう一杯3%のチューハイを一缶飲んで終わりとした。
今までの私であれば全く飲んだ気などしないような量であったが、長い禁酒期間を経た今の私はその量で十分すぎるほどの満足感を得られた。
友人達がきてくれたのはもちろんのこと、酒のおかげでその日の「飲み会」はとても楽しいものになった。
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自分はそれまでも毎日酒を飲んでいたわけではなかったし、肝臓が悪く医師に止められていたわけでもなかった。
自分なんかより世間のお父さんや、外食好きのお姉さんの方がよっぽど酒をよく飲んでいるだろう。
でも、一切酒を飲むなと言われてからのあの渇望を経験し、自分もアルコールに依存するところがあった事に気づいた。
新型コロナ禍の中で、個人の酒の消費量が増えているなどと言われている。
様々な環境の変化が次々と起こり、各々ストレスもあると思う。
普通に考えれば家の中でできる手軽なストレス発散と言えば酒だが、あまり頼りすぎるのはよくないだろう。
ストレッチをしてみたり、コーヒーを飲んでみたり工夫はたくさんできる。
そんな工夫をした上で、寝る前の一杯を大切にしてみて欲しい。
酒は自分が気持ち良くなる事を目的と利用して良い物ではなく、
食事や人との会話をより楽しむ為の物である。
私の罹患した上咽頭癌の発生には、多量の飲酒も発生に寄与すると言われている。
私のように一度病気になってしまうと、もう普通に飲むこともできなくなる。
そうならないように皆は上手に酒というものと付き合って欲しいと思う。
おすすめサイト
マンガなどあって、酒との付き合い方についてわかりやすく解説してくれています。
おすすめの本
アルコール依存症を経験した筆者の葛藤を描いています。
これを読むといかにアルコールを立つのが難しいかわかると思います。
そしたら今日はこの辺で。
PS.
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